文化講演会
10月31日 生徒、そして職員一同待ちに待った文化講演会が実施された。
本校の文化講演会では、毎年各界で活躍されている講師の方をお迎えして、生徒の好奇心を喚起する講演を行っていただいている。
今年は哲学者の野矢茂樹先生に「哲学と『生きる力』」というテーマのもと約90分にわたり哲学そして生きることについて語っていただいた。
多くの修猷生にとって野矢先生は「猫は後悔するか」や「他者の声、実在の声」、「無限論の教室」といった作品を通してその思想に触れたことのある同時代人である。その方が目の前で実際に何を語られるか、館生は緊張の面持ちであったが、すぐにその穏やかな語り口に一同引き込まれることになった。
講演は、私たちが生きていく上で陥りがちな「四つの罠」、すなわち「目標の罠」「成績の罠」「褒められることの罠」「自己肯定感の罠」を軸に展開された。私たちはその罠の外し方を学び、常識とされていることを自分の頭で考える力、すなわち「足を止めて立ち止まる力」の重要性を再認識することができた。以下、断章的であるが私たちをわくわくさせてくれた言葉を並べたい。
「何が正解かを考えるのではなく、そもそも何が問題かを考えることが大事。正解のある問いにばかり取り組んで良い点数を取ることだけを目標にすることは、生きる力を損なわせる面がある」
「時間とは何であるか、誰も私に問わなければ、私はそれを知っている。しかし誰かにそれを問われると私はそれが何なのか分からなくなる」(アウグスティヌス)
「大人になったら、何にも偉くない自分と向き合わなければならない」
「人生がつらいのは無力だからではなく、余計なものを背負い込むからだ」
「『優しいから好き、見た目が良いから好き』といった理由のある愛は弱い。評価のものさしを離れ、ありのままを受け入れることで愛は成立する」
「遊びとは過程そのものを楽しむこと。だから遊び友だちを作るのは難しい」
全編を通して、先生の青年時代のエピソードやご家族のこと、旅や恋愛について、平易なことばで親しみを込めて語ってくださったが、何よりも西洋哲学を探究されてきた先生から禅の精神を教わり、その実践を示していただくことができたのは極めて貴重な経験だった。
講演の締めくくりは全員で行った「座禅の呼吸」であった。一同、2分間、静寂に包まれた講堂で今日得たものを体に染み込ませる時間を共有することができた。
終了後の座談会でも、集まった生徒の質問の一つ一つに丁寧にご返答してくださり、向学心あふれる若者の心と脳に心地よい刺激を与え、さらなる疑問の種を植え付けていただいた。鎌倉から福岡まではるばるお越しいただき、私たちの目を開かせる講演をしてくださった野矢先生に心から感謝のことばを申し上げたい。