10月30日(水)文化講演会が行われた。本校の文化講演会は毎年秋に、各界でご活躍の著名人をお招きして、生徒の知的好奇心を喚起する目的で開催されている。 本年度は、大阪大学高等共創研究院教授の栁澤琢史氏をお招きし、『ニューロテクノロジーの現在と未来』と題して約90分間ご講演をいただいた。
栁澤教授は大学で医療と脳研究に携わる医師-研究者(MD-PhD)である。はじめに、本年度ノーベル物理学賞を受賞した、プリンストン大学のジョン・J・ホップフィールド (John J. Hopfield)氏とトロント大学のジェフリー・E・ヒントン (Geoffrey E. Hinton)氏の研究成果が紹介され、「脳の仕組みを解明できるか」、「脳の仕組みがわかれば何ができるか」についてお話をいただいた。栁澤教授は主に治療目的で、てんかんなどの脳外科治療を受けている患者さんの協力を得て、人間の脳とコンピュータを接続する技術「ブレインマシーンインターフェイス」(BMI)の研究をされ、侵襲的な方法(外科手術を行い、脳内あるいは脳の表面に電極を設置する手法)によって計測する脳波を使ったBMIを開発された。例えば身体のすべてが動かなくなる、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんが、脳で思い浮かべるだけで自らの意思を伝えたり、ロボットを動かして外界と関わることができたりする技術で、最近はAIを用いることでより低侵襲な方法でも実用的な脳波が読み取れるようになってきた。講演の途中で、実際に2人の生徒に演壇に上がってもらい、BMIを装着して簡単なコンピュータゲームを手を使わずに「念じる」だけで動かす実験をした。画面に映し出された「ブロック崩しゲーム」の反射板が左右に動くと会場の生徒からは一斉に驚きの声が上がった。まさに、未来の医療やテクノロジーの最先端を目の当たりにする瞬間であった。今回の講演内容を理解するには高度な知識が必要だが、このような経験は生徒の知的好奇心を呼び覚まし、学習意欲を高める良い機会となった。
[栁澤 琢史氏 経歴]
2000年早稲田大学大学院理工学専攻修士課程修了。2004年大阪大学医学部卒業。2009年同大大学院医学系研究科修了。博士(医学)。同大大学院医学系研究科保健学専攻神経機能診断学助教。同大国際医工情報センター臨床神経医工学寄附研究部門講師などを経て、2018年4月より同大大学院高等共創研究院教授。科学技術振興機構ERATO「池谷脳AI融合プロジェクト」研究メンバー。